沖森泰行 JBA副会長・㈱環境総合テクノス環境部地球環境グループマネジャー

1.車の両輪
大気中のCO2を減少させるには、CO2排出削減とCO2吸収・隔離を平行して行うことが必要です。まず取り組むべきなのはCO2排出の削減ですが、本質的には大気中にCO2を排出する速度を遅らせるだけで、放出することに変わりはありません。

一方、CO2の吸収・隔離は大気中のCO2量を直接に減少させることになります。したがって、CO2排出削減とCO2吸収・隔離は温暖化対策の車の両輪であり、双方とも進める必要があるのです。

2.植物の光合成
大気中のCO2を吸収・隔離する方策としては、植物の光合成によって大気中の炭素を取り込むことが最も効率が良くコストも安く済みます。

大気中の炭素は植物内で主に炭水化物として植物体を構成します。ただし、植物は枯死しますから一定期間後は分解したり、また火災によって燃焼したりすることで大気中に炭素が戻るので、このままでは炭素は不安定な状態なのです「。

3.安定した炭素隔離
このように炭素が不安定な状態の植物を、高温処理して分解しにくい安定した炭素の状態にするのが炭化です。炭化は酸素の少ない環境で起こる熱分解であり、できたものが炭になります。炭化によって植物体の炭素の30~40%が炭に保持されます。ただし、炭を高い温度で引火すれば、燃えて大気中に炭素が還元されてしまいます。

4.非燃料用途に炭を用いる
炭を燃焼させて熱源に利用しない用途を非燃料用途といい、土壌改良材や水質改善、脱臭などはすでに市場化・商品化されています。

炭は農地土壌などに埋設されて土壌改良材として長年使用されてきました。炭の構造は多孔性で、多様な大きさの孔を有しています。この多孔性によって炭には土壌の通気性や保水性を改善する効果があり、また共生微生物の繁殖場所にもなっています。

土壌改良効果によって植物の根が健全になり、成長が促進されます。さらに健全な根系の発達は病虫害への抵抗性をつくりますので、作物や植林の連作障害を軽減し、持続的な栽培育成を可能とするのです。

5.カーボンオフセットとの連携
農林業の残廃物は大きな未利用有機物資源です。これらを炭化して、その炭を土壌に埋設すれば未利用資源が土壌へ還元され、有機物中の不安定な炭素から炭の中の安定した炭素へ転換されることになり、大気中の炭素を土壌に半永久的に埋設することが可能となります。

植物は大気中の炭素を吸収しますが、燃焼や分解によって大気中に還元されますので、植物は「炭素ニュートラル(中立)」といわれています。その意味では炭化によってできた炭を土中に埋設することは、さらに炭素を完全に隔離して「炭素マイナス」を生み出すことになります。

この転換を事業的に行うには資金を必要としますが、現状では未利用有機物を収集して炭化するコストは比較的に高く、独立した事業を形成することは容易でありません。その資金ギャップを埋め合わると期待されるのが炭素オフセット事業です。

これはCO2を排出する事業者や個人が資金を提供して、排出削減や吸収事業を育成し、自らの排出分を相殺(オフセット)する仕組みです。国際的に公的に認められたものが京都議定書のもとで発行される京都クレジット(排出権取引、CDM、JI)ですが、その他に、自主的に認証した炭素クレジットや製品に炭素削減分を付加した方法があります。

今のところいずれの炭素オフセット事業でも認められた方策は植林だけですが、非燃料用途の炭が炭素オフセット事業の方策に認められれば資金の補填が可能となり、期待を集めています。